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雑多

クトゥルフ神話TRPG 6版改変「カタシロ」リプレイ

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クトゥルフ神話TRPG 6版改変「カタシロ」(作:ディズム様)

KP:しらいし
PL:夏村

 

テキストセッションのログを整形したものです。
読みやすさを重視し、ステータス変化の処理結果は省いています。
今回は半テキストセッション形式で行ったため、KPとPLの会話はほぼ全て省略しています。

 

この先は、シナリオやエンドの重大なネタバレが多分に含まれますので、以下に当てはまる方は閲覧をご遠慮ください。

  • シナリオ未通過
  • シナリオ通過予定
  • シナリオ通過中



 

ざっくり目次

 

 

 

PC

f:id:shouco08:20210930212643p:plain

PC:相馬 崎更(そうま きさら) 作画:夏村
※画像タップでPC詳細設定。なお、画像の無断転載等は固く禁じます※

 

≪ステータス≫
STR:7|CON:7|POW:14|DEX:11
APP:10|SIZ:13|INT:17|EDU:15

HP:10|SAN:60|MP:14
イデア:85|幸運:70|知識:75

 

≪技能≫
回避:50|隠れる:57|聞き耳:50|精神分析:51
図書館:75|目星:75|説得:60
ほかの言語(英語):60|オカルト:60|芸術(詩):40
心理学:50|歴史:50|ナビゲート:11

 

 

 

 

導入・1日目

 

KP : あなたは、目が覚めると病室のベッドにいた。いや、正確には手術室だ。頭痛がひどい。体が思うように動かない。

 

相馬 崎更 : 「……?」

 

KP : そこに、一人の男がやってくる。

医者 : 「気が付いたようだね。私は医者だ。君は落雷に遭って、病院に運ばれた。覚えているかい?」

KP : 〈アイデアをお願いします。

相馬 崎更 : CCB<=85 【アイデア(1D100<=85) > 35 > 成功

KP : 強い光を浴びた記憶がある。だがそれ以前の記憶は無い。自分自身に関する記憶が抜け落ちているようだ。

相馬 崎更 : 自分の名前は覚えていますか?

KP : では、もう一度<アイデアをお願いします。

相馬 崎更 : CCB<=85 【アイデア(1D100<=85) > 61 > 成功

KP : 名前だけは覚えていました。

 

相馬 崎更 : 「……今日は何月何日ですか?」

医者 : 「今日は10月26日だね」

医者 : 「名前は?どこに住んでいたか覚えているかい?」

相馬 崎更 : 「名前は分かります。住所は……思い出せません」

医者 : 「名前は憶えているが、住所は思い出せない…と。ふむ、君自身に関する記憶を失ってしまっているようだね」
医者 : 「検査が必要だな。体も本調子ではないかもしれないが、しばらくすれば、動けるようになるだろう」

相馬 崎更 : 「碌に問診もしていないのに、何故そんなことが分かるんですか?」

医者 : 「私も長いこと医者をやってるもんだからね」

相馬 崎更 : 全然納得はしません。

相馬 崎更 : 「……僕はこれからどのような検査を受けるんですか?」

医者 : 「そんな物々しい検査じゃないから安心してくれたまえ。記憶がない人を退院させるわけにもいかないしね。数日間は様子を見たほうが良い。そうだな…3日間は、ここにいてもらう」

相馬 崎更 : 「3日? いやに断定的ですね」

医者 : 「それは君の容態次第だ。伸びるかもしれないし、もう少し早く退院できるかもしれない」

相馬 崎更 : 検査の内容をはぐらかされたなと思って警戒します。また、頼りない担当医だなと感じて不快です。

相馬 崎更 : 「あなたの名前は?」

医者 : 「わたしは蛇崩だ」

相馬 崎更 : 「蛇崩川と同じ字を当てるのでしょうか。珍しい苗字ですね」

医者 : 「そうだよ。きみはずいぶんと博識だったんだね」

相馬 崎更 : 「ある程度知識が必要な職業だったのかもしれません。思い出せませんが」

医者 : 「なるほど。そうだったのかもしれないね」

医者 : 「僕のことをどう思っていてくれてもかまわないが、やはり数日はここにいてもらうことになる。約束はできないが、記憶もそのうち戻るだろう」
医者 : 「それと、ここは手術室なんだが、他に部屋が無くてね。物々しくて申し訳ないが、ここで過ごしてもらう」

相馬 崎更 : 「……へぇ。まあ、寝ているだけならどこでも不自由ないですから、特に気にしませんよ」

医者 : 「すまないね。それと記憶を取り戻す手助け、といってはなんなのだが、僕とお喋りでもしようじゃないか」

相馬 崎更 : 「今じゃなきゃ駄目ですか?」

医者 : 「そんなに不機嫌にならないでくれたまえ。ちょっとしたお喋りだよ」

相馬 崎更 : 「……はあ。そうですか」

 

医者 : 「それでは…君は囚人のジレンマという思考実験を知っている、あるいは覚えているかな?」

相馬 崎更 : 「ゲーム理論の一種ですね。個人としての最適解が、そのまま全体の最適解になる訳ではない、という」

医者 : 「さすが博識だね。では、この表を見てくれ」

相馬 崎更 : 首を動かして見ます。

医者 : 「これは例えばの話だが、君と私はいまから自白するか、黙秘するかを選択する。私たちは何らかの共犯を行い、別々の取調室で取り調べを受けている。そこで我々は、黙秘するか、あいつがやったとしゃべってしまうかの二択を迫られている」
医者 : 「二人ともが黙秘した場合、証拠不十分として二人とも刑期は2年。私が黙秘し、君が自白した場合は、君が私を売ったことになり、私は刑期10年、君は釈放される。逆なら君が10年の懲役、私は釈放となる。二人ともが自白したとなると、二人とも5年の刑期だ」

医者 : 「さて、この場合、君は自白するか、黙秘するか、せーので答えてみてくれないか」

相馬 崎更 : 「わかりました」

医者 : 「答えが決まったら教えてくれ」

相馬 崎更 : 「決まりました。考えるまでもないですから」

医者 : 「では、せーので答えてくれ」

 

医者 : 「せーの」

 

相馬 崎更 : 「自白します」
医者 : 「自白」

 

医者 : 「なるほど。では、なぜ君は自白と答えたのかな?」

相馬 崎更 : 「全体としての最適解を選べるのは、囚人同士に一定の信頼関係がある場合でしょう。僕はあなたのことをよく知りません。信頼もない。であれば、個人としての最適解を選ぶのは当然のことです」

医者 : 「そうか。では、もし共犯者が私ではなく信頼できる知人や家族だったら答えは変わるのかな?」

相馬 崎更 : 『信頼できる人』として家族が挙げられましたが、それに違和感を覚えます。同時に、自分にとって家族がどういった存在であったのかを思い出します。

相馬 崎更 : 「……ええ。その場合は黙秘します」

医者 : 「なるほど。やはり君には相手との信頼関係が大事、ということなんだね」

相馬 崎更 : 「共犯の相手に選ぶのであれば、必要でしょうね」

医者 : 「そもそも信頼できる関係の人としか共犯関係を結ばないということか」

相馬 崎更 : 「そうです。仮に相手が自白を選んでしまったとしても、それを許容できるほどの信頼関係がある、というのが理想的ですね」

医者 : 「ふむ。君のことが少しわかった気がするよ」

相馬 崎更 : 「はあ。そうですか」

 

医者 : 「少しでも記憶を取り戻す助けになればいいんだがね」

医者 : 「すまないが、そろそろ外来の患者を診る時間でね。失礼させてもらうよ」

KP : と言って医者は部屋を出ていきました。

 

 

KP : 探索者は今、手術室のベッドの上にいる。体が重い。
  手の届く範囲であれば、気になったものを調べることができそうだ。

KP : ベッドサイドモニター/器具

相馬 崎更 : ベッドサイドモニターを見ます。

KP : ベッドのそばには、患者の心拍数や血圧などの異常を教えてくれる装置がある。このような機器が出されているということは、非常に危ない状況だったのだろうか。97と98という数字が画面に表示されている。その数字が何を意味するのかはわからない。
  <電気修理><コンピュータ>などが振れます。

相馬 崎更 : CCB<=20 【機械修理】 (1D100<=20) > 100 > 致命的失敗

KP : ファンブルなので別の技能は振れません。特に気になることはありませんでした。

相馬 崎更 : 97や98は心拍数にしては異常な数値だなと感じます。また、同様に血圧でもないと感じます。

相馬 崎更 : 器具に目を向けます。

KP : ベッドのそばにある台の上には、器具が並べられている。刃物の類は無い。

相馬 崎更 : 手術室であれば、メスやメッツェン等がありそうなものなのに?と疑問に思います。

KP : <目星>などが振れます。

相馬 崎更 : CCB<=75 【目星】 (1D100<=75) > 99 > 致命的失敗

KP : ファンブルなので別の技能は振れません。特に気になることはありませんでした。

KP : ほかに気になるところはありますか?

相馬 崎更 : 自分の身体を詳しく見てみたいです。

KP : 傷跡はなく、とにかく体がだるいといった感覚がある。

相馬 崎更 : 落雷に打たれたのに傷跡がないのはおかしいと感じます。
外傷が完治するほど長い間、意識を失っていたのか?とも考えましたが、であればこんなに身体が怠いというのは納得がいかないと考え直します。

 

KP : そうこうしていると、隣の部屋から声が聞こえてくる。

??? : 「だれかいるの?」

相馬 崎更 : 「……」
相馬 崎更 : 答えません。

??? : 「あれ?だれもいないのかな?おーい!だれかいませんかー!」

KP : 少年の声が聞こえてきます。

相馬 崎更 : 「病院で大きな声を出すべきじゃない」

??? : 「ご、ごめんなさい…。お兄さんも入院してるの?」

相馬 崎更 : 「いいよ、次から気をつけてくれれば」
相馬 崎更 : 「そう。雷に打たれたらしくてね」

??? : 「そうなんだ。僕も隣で入院してるんだ」
??? : 「ずっとここにいるから暇なんだ。ちょっと話し相手になってよ」

相馬 崎更 : 「今じゃないと駄目? 頭が痛いんだ」

??? : 「そうなんだ…もしかしてお兄さんも記憶がない人?」

相馬 崎更 : 「……どうしてそう思うの」

??? : 「そこの部屋に入る患者さんは、みんな記憶が無いって言うんだ。そういう人が入る部屋なんだと思う」

相馬 崎更 : 記憶喪失の患者が、同じ病院に何人も搬送されてくるというのは異常だなと感じます。

相馬 崎更 : 「前の人はどれくらいで退院していったか、覚えてる?」

??? : 「ん~、みんなだいたい3日くらい?で退院していったと思う!」

相馬 崎更 : 「3日ね……」

??? : 「病院の外の楽しい話をしてもらおうと思ったのに、記憶がないならできないね…ざんねん…」

相馬 崎更 : 「……ごめん。思い出せたら何か聞かせるよ」

??? : 「ありがとう。お兄さんはやさしいんだね」

相馬 崎更 : 「どうかな。君に不親切にする理由がないだけだ」

??? : 「やっぱりなんかちょっと変わった人かも…」

相馬 崎更 : 「好きに評価すればいい」

??? : 「お兄さん面白い人だね」
??? : 「お兄さんもきっとすぐ退院していっちゃうんだろうな~。うちのお父さんは名医だからね」

相馬 崎更 : 「ひとに興味がある人は、得てしてそういう風に他人を評価するね」
相馬 崎更 : 「君の父親は蛇崩先生?」

??? : 「そうだよ!僕のお父さん!僕のことも、治そうとしてくれてるんだ。ずっと、諦めずに。だから、僕が泣きごとを言う訳にはいかないんだ」

相馬 崎更 : 「……そうか。諦めない人は強いよ。君も、君のお父さんも。君の身体が良くなることを、僕も祈っておこう」

??? : 「やっぱりお兄さん優しいね。 僕も体が治ったら、お父さんみたいなお医者さんになる。それで、たくさんの人を助けるんだ」

相馬 崎更 : 「良いんじゃない。目標を持つことは大切だ。君の人生を導いてくれるものになる」

??? : 「ありがとう!お医者さんになってお兄さんがもしまた病気になったら僕が治してあげるね!」

相馬 崎更 : 「それはどうも。病気にはならないほうがいいけどね」

??? : 「たしかにそうかも!」

??? : 「そういえばお兄さん、名前は覚えてるの?」

相馬 崎更 : 「ああ。相馬 崎更っていうんだ。……僕はもうお兄さんって年でもないから、苗字でも名前でも好きなように呼んで」

??? : 「そうなの?姿が見えないから全然わからないや。じゃあ相馬さん…かな?ぼくはショウタっていうんだ~」

相馬 崎更 : 「そう。……ごめん。やっぱり頭が痛いから、話すのはまた明日にしよう」

ショウタ : 「そ、そうだったね!ごめんね!」

KP : 強烈な眠気が探索者を襲う。まだ体力が戻り切っていないようだ。泥のように眠りに落ちる直前、隣の部屋から

ショウタ : 「おやすみ」

KP : と聞こえた気がした。

 

 

 

2日目

 

KP : 目が覚めた。探索者は相変わらず、手術室にいる。だが様子がおかしい。視界が白黒になったり、チラついたり、正常では無い。

相馬 崎更 : 身体は動きますか?

KP : 昨日よりも動かせそうです。

KP : いったいどうなっているんだと心配していると、医者がやってくる。医者の顔も、うまく認識できない。声は確かに医者のものだが、見た目では判断できなくなっている。

医者 : 「おはよう。今日の容態はどうだね?」

相馬 崎更 : 「最悪ですね。視界が明らかに正常ではない」

医者 : 「視界が悪い?そうか…ではあとで検査しよう。心配しなくても、良くなるから」

相馬 崎更 : 「検査の内容は?」

医者 : 「目の異常ということなら後で専門の先生に診てもらうことにしよう」

相馬 崎更 : 「……そうですか。目というより、脳のほうに異常があるように思いますが。まあ、医師の判断に従いますよ」

医者 : 「あとで詳しく検査をしよう」

 

医者 : 「では、今日もお話をして記憶を取り戻す手助けをしようじゃないか」

医者 : 「もし目の調子が悪いというなら目を瞑っていてくれたまえ。お喋りに支障はないだろう」

相馬 崎更 : 黙って目を瞑ります。

 

医者 : 「君はテセウスの船というパラドックスについて知っている、もしくは覚えているだろうか?」

相馬 崎更 : 「全ての部品を取り換えた船は、元の船と同じと言えるか、という同一性の問題ですね」

医者 : 「そうだ。さすがだね」

医者 : 「テセウスの乗っていた船があり、古いパーツを徐々に置き換えいった結果、すべてのパーツが置き換わったとき、この船はテセウスの船といえるのか?というパラドックスだ」

医者 : 「このパラドックスについて、君の考えを聞かせてくれ」

 

相馬 崎更 : 「違う船でしょう」

医者 : 「ずいぶんはっきりと言い切るね。では、なぜ違う船だと思ったのかな?」

相馬 崎更 : 「同一性について、僕の判定はシビアです。ですから厳密に言えば、一つでもパーツが入れ替われば、それはもう違う船です。オリジナルのパーツで作られたものだけが『テセウスの船』です」

医者 : 「なるほど。でも人間は細胞が何か月、あるいは何年かでどんどん入れ替わっている。だが君は君だし、私は私だ」

医者 : 「その差はいったいなんなんだろうね」

相馬 崎更 : 「船のパーツと人間の細胞を同列に語るのは、僕からすれば暴論ですが……。まあ、答えましょう」

相馬 崎更 : 「船の部品が入れ替わったことは視認できます。でも、細胞が入れ替わったことは分かりません。誰も、自分でさえも、自分のパーツが入れ替わったことを認識できなければ、同じとも違うとも言えないでしょう」

医者 : 「なるほど。入れ替わっているのが視認できれば違うもの、誰にも視認できなければ同一のもの。君はそう考えているんだね」

相馬 崎更 : 「視認できなければ、同一とも言えるし、同一でないとも言える、が正しいですね」

医者 : 「すごくシビアな考えだね」

医者 : 「また君のことが少し知れた気がするよ」

相馬 崎更 : 「そうですか。先ほどの口ぶりから察するに、あなたは僕とは違う意見をお持ちのようだ。お時間があるようなら、あなたの考えも聞きたいですね」

医者 : 「すべてのパーツが置き換わったとしても、船自身に旅をした記憶が残っているなら、それはテセウスの船と言えると思う。ものに記憶はないがね」

相馬 崎更 : 「へぇ。ロマンティックな考え方ですね」

医者 : 「はは、そういう言い方をされると少し照れるね」

 

医者 : 「そろそろ外来の患者を診なければならない。眼球の検査は、夜にするよ」

相馬 崎更 : 「どうも」

医者 : 「では失礼するよ」

 

 

KP : あなたは今、手術室のベッドの上にいる。相変わらず体は重いが、昨日よりも動けそうだ。少し歩いて、気になったものを調べることができるだろう。
KP : 資料/加温装置

相馬 崎更 : 加温装置を調べます。

KP : ベッドから少し離れた位置に、温風で体温を適温に維持するための装置がある。
KP : <機械修理><コンピューター>などが振れます。

相馬 崎更 : CCB<=20 【機械修理】 (1D100<=20) > 47 > 失敗
相馬 崎更 : CCB<=1 【コンピューター】 (1D100<=1) > 86 > 失敗

KP : 特に気になることはありませんでした。

相馬 崎更 : 資料を手に取って読みます。

KP : 資料
  少し歩いた先にある棚には患者の名簿と思わしき資料が収められている。

〈名前〉   〈適性率①〉 〈適性率②〉
有原 怜王    13%     05%
美好 英     15%     96%
戸水 茅     33%     24%
望 明日翔    67%     38%
田邊 しぐれ   12%     03%
真野 恩     40%     62%
越智 深月    09%     11%

 

KP : <目星>などが振れます。

相馬 崎更 : CCB<=75 【目星】 (1D100<=75) > 80 > 失敗
相馬 崎更 : CCB<=75 【図書館】 (1D100<=75) > 19 > 成功

KP : 次の記述を発見する。

KP : 『両方の適性を持った人間が見つからない。引き続き患者から、高い適性率を持った人間を探す』という走り書きがあった。

 

ショウタ : 「相馬さ~ん、調子はどう?」

相馬 崎更 : 資料を読み込んでいるので、一旦無視します。

ショウタ : 「あ、あれ?今日は寝ちゃってるのかな…」

相馬 崎更 : 「何?」
相馬 崎更 : 資料を読みながら答えます。

ショウタ : 「あ!起きてた!今日は調子大丈夫?元気になった?」

相馬 崎更 : 「一歩進んで二歩下がるって感じかな」

ショウタ : 「どういうこと?」

相馬 崎更 : 「良くなったところと悪くなったところがあるんだ。で、総合的に言えば悪化してるように感じてるってこと」

ショウタ : 「どこが具合悪くなっちゃったの?」

相馬 崎更 : 「視界がはっきりしないんだ。目か脳か、どっちの異常なのかは分からない」

ショウタ : 「目の調子が悪い?そういう症状は初めて聞いたなぁ」

相馬 崎更 : 「ここに居た他の患者はどんな症状だった? 例えば……、美好 英とか」

ショウタ : 「うーん。一人ひとりまであんまりおぼえてないけどこれまではね、頭がぼーっとするとか、あんまりお話が通じないとか、そういう人が多かったかな」
ショウタ : 「その部屋に運び込まれた日は平気なんだけど、次の日になると、ちょっとおかしくなる人が多かったかな」
ショウタ : 「相馬さんもそうなっちゃうんじゃないかって、恐かったんだ」

相馬 崎更 : 「他の人と症状が違うのは、僕にとっては恐ろしいよ」

ショウタ : 「僕のお父さん名医だから大丈夫だよ!きっとよくなるよ!」

ショウタ : 「でも目はいやだよね。目が見えないってとっても退屈だからさ」

相馬 崎更 : 「……君は目が見えないの?」
相馬 崎更 :  ぱっと顔を上げます。

ショウタ : 「そう…なんだ。実は僕ね、目が見えないんだ。事故で体も動かせない」

ショウタ : 「でもお父さんがぜったい元気にしてくれるって信じてるんだ!」

相馬 崎更 : 「……そうなることを祈ってるよ」
相馬 崎更 : 失明した患者の視力を戻すのはまず無理だろうと思い、目を伏せます。

相馬 崎更 : 「そういえば昨日、何か思い出したことがあったら話すって言ったけど、まだ君に聞かせられそうな楽しい話は思い出してない。ごめん」

ショウタ : 「全然大丈夫だよ!きにしないで!」

ショウタ : 「あのさ…もし相馬さんが元気になって、僕も元気になったら、会ってくれる?」

相馬 崎更 : 「まあ、暇だったら良いよ」

ショウタ : 「やったあ!」
ショウタ : 「約束だよ!」

ショウタ : 「もし僕が先に元気になったら相馬さんのお見舞い行くね」

相馬 崎更 : 「いいよ、そんなことしなくて。人生は思っているよりずっと短い。そして君は、人より自由に使える時間が短いと心得るべきだ。これから先、持てる時間はできる限り自分のために使いなさい」

ショウタ : 「で、でも僕が自分のために相馬さんのお見舞いに行きたいって思ったら行ってもいいよね?」

相馬 崎更 :「君は医者になりたいんだろ? 勉強したり、父親の話を聞いたりするのに時間を割いた方がいい。僕のお見舞いは君に何も齎さないから」

ショウタ : 「そ、そっか…ごめんね…」

相馬 崎更 : 「謝るようなことじゃない。気持ちだけ受け取っておくよ」

 

KP : ショウタとお喋りをしていると、強烈な眠気があなたを襲う。歩けるようになったとは言え、まだ体力が戻り切っていないようだ。泥のように眠りに落ちる直前、隣の部屋から

ショウタ : 「おやすみ」

KP : と聞こえた気がした。

 

 

 

3日目

 

KP : 目が覚めた。探索者は相変わらず、手術室にいる。視界はクリアになっている。体の調子も、昨日より良くなっている。

KP : そこへ、医者がやってくる。

医者 : 「おはよう。今日の調子はどうだね」

相馬 崎更 : 「……良好です。不思議なほどに」
相馬 崎更 : 身を起こして答えます。

医者 : 「それは良かった」

相馬 崎更 : 「……ところで、モニターに表示されているのは一体何の数値なんですか? 心拍数でも血圧でもないですよね」

医者 : 「ああこれか。まあこれはあまり君が気にするものではないよ」

相馬 崎更 : モニターは管などで身体とつながっていますか?

KP : 見たところ、何もつながっていないようです。

相馬 崎更 : 「……そうですか。担当医として説明くらいしてほしいものですが」

医者 : 「今説明してもまた忘れてしまうかもしれないかもしれない。記憶が戻った時にでも詳しく説明しようじゃないか」

相馬 崎更 : はぐらかされたと感じます。納得はしませんが、詳しい話は聞けなそうだと悟り、引き下がります。

相馬 崎更 : 「わかりました。従いましょう」

 

医者 : 「では今日も記憶を取り戻す手助けとしてお喋りをしようじゃないか」

医者 : 「きみは臓器くじという思考実験を知っている、もしくは覚えているかな?」

相馬 崎更 : 「一人の犠牲で複数人を助けることの是非を問う、功利主義的な問題ですね」

医者 : 「きみは何でも知っているんだね。さすがだ」

相馬 崎更 : 「何でもは知りません。知っていることしか知りませんよ」

 

医者 : 「ある人間を積極的に殺し、それよりたくさんの人間を救うのは果たしていいことなのかという思考実験だ」
医者 : 「ルールがある。まず公平なくじを健康な人に引いてもらう。くじで当たりが出たらその人は殺され、臓器をすべて取り出して臓器移植が必要な人に提供する。くじに不正行為は起きないし、臓器移植は必ず成功するものとする。そして人を殺す以外に臓器を得る手段はないものとする」

医者 : 「としたときに、この行為について、君はどう思うだろうか?」

 

相馬 崎更 : 「許されざる理不尽です。到底称賛はできませんね」

医者 : 「なるほど。なぜそう思うのかね?」

相馬 崎更 : 「臓器移植が必要な人は、確かに気の毒でしょう。でも、ひとにはひとの人生がありますから。他人の不幸を背負って生きる必要性は誰にもありません。自己犠牲を強要されるのであれば、それは理不尽に他なりません」

医者 : 「確かにそうかもしれないね。でも、たった一人の犠牲で多くの命が救えるんだよ」

相馬 崎更 : 「それはそうでしょうね。自分の命と引き換えに、気の毒な誰かを救いたいと願う人だけがくじに参加するというのであれば、おぞましい美談として成立し得るかもしれません。僕は御免被りますが」

医者 : 「なるほどね。もし自分が犠牲になるとしたら絶対に嫌だ、ということか」

相馬 崎更 : 「ええ。僕には赤の他人を救いたいと願う理由はありませんし」

医者 : 「もしそれが赤の他人じゃなかったとしたら意見は変わるのかな?」

相馬 崎更 : 「親しい間柄の人間が臓器提供を待っていて、僕はその人を救いたい。しかし僕では適合しない。そのとき、適合する誰かに犠牲になってほしいと望むか、ということですか?」

医者 : 「もし親しい間柄の人に臓器が必要で、自分の臓器が適応したという場合だ」

相馬 崎更 : 「ふむ。そうですね、それが腎臓であれば提供します。片方あれば生きていけますから。それ以外であれば、提供しません」

医者 : 「なるほどね。自分が不利益をこうむるのはあくまで親しい間柄の場合のみ、ってことだね」

相馬 崎更 : 「はい。僕は……、そうです、僕には、自分で定めた人生の命題がありますから」
相馬 崎更 : 自分が生きたいと思う理由を考えたとき、自分が劇作家であること、創作活動こそが自分の価値の証明であるということを思い出します。

医者 : 「さらに君のことが分かったような気がするよ」

 

医者 : 「そろそろ外来の患者を診なければならない。明日には退院できるだろう。記憶も、きっと戻るだろう」
医者 : 「失礼させてもらうよ」

KP : そういって医者は部屋を後にした。

 

 

KP : 今の調子なら、ドアの向こうのショウタに会いに行けそうです。

相馬 崎更 : ドアをノックし、声を掛けてみます。

相馬 崎更 : 「相馬だ。何故か知らないけど、明日には退院できそうだと言われたよ」

ショウタ : 「あ!相馬さん!元気になったってこと?よかったね!」

相馬 崎更 : 「そうだね。良かったよ。締め切りも迫ってるし、一刻も早く帰りたい」
相馬 崎更 : ドア横の壁にもたれかかって会話を続けます。

ショウタ : 「締め切り…!大変なお仕事してたんだね…!」

相馬 崎更 : 「大変じゃない仕事はないよ」

ショウタ : 「そうなんだ…!一つ賢くなっちゃった!」

相馬 崎更 : 「そう。医者も大変、僕の仕事も大変。仕事は大変だよ」

ショウタ : 「大人ってみんな大変な思いしてるんだね」

相馬 崎更 : 「大人だけじゃない。君も大変な思いをしてきただろ」

ショウタ : 「そうだけど、僕よりお父さんのほうが頑張ってくれてるから大丈夫なんだ!」

相馬 崎更 : 「そうか。良い父親なんだね。恵まれていると思うよ」

ショウタ : 「でしょ~!僕のお父さんは名医だからね!」

相馬 崎更 : 「僕のことも宣言通り3日で治したということは、あながち間違ってはないかもね」

ショウタ : 「さすが僕のお父さんだよね!」

 

相馬 崎更 : 「ああ、そうだ。記憶、少し戻ったんだ。楽しい話になるかは分からないけど、演劇の話をしようか。興味ある?」

ショウタ : 「演劇?おもしろそう!聞きたい聞きたい!」

相馬 崎更 : 「演劇はね、凄いよ。同じ演目でも、演出や演者、スタッフが変われば全く別物になる。もっと言えば、同じ演者やスタッフで演じても、昨日と今日、今日と明日で、同じ舞台になることはないんだ。台詞の間、観客、照明の当たり方、演奏、どれひとつ同じものはないからね。まるでひとつの生き物のように。こんなに面白いものはないよ」

ショウタ : 「そうなんだ…!すごいなあ。いつか元気になって目もみえるようになったら演劇見に行きたい!」

相馬 崎更 : 「ああ。演劇が、君の人生を豊かにするものになれば、僕も嬉しい。お父さんと一緒に観に行けばいいよ。はじめは有名どころが良いかな。『オペラ座の怪人』とか。あれはつまらなくすることのほうが難しい」

ショウタ : 「相馬さんのおすすめか…!元気になったら絶対見に行くね!!」

相馬 崎更 : 「はは、勉強も頑張りなよ」

ショウタ : 「うん!がんばるね!」

相馬 崎更 : 壁から身を起こして、ドアの前に立ちます。
相馬 崎更 : 「さっきも言ったけど、僕は明日には退院らしい。ずっと壁越しに話しているのもどうかと思うし、最後に君の顔を見て帰りたい。君と目を合わせて話せないのは残念だけどね。だから、そっちの部屋に行ってもいい?」

ショウタ : 「え!ほんと?会いに来てくれるの?うれしい!」

相馬 崎更 : 「ああ。今行くよ」

相馬 崎更 : 扉を開けます。

 

KP : 隣の部屋は薄暗い。部屋の中央が、ぼんやりと光っている。

相馬 崎更 : 部屋の中に入ります。

 

 

KP : そこには、ベッドがあった。そして、そのベッドに横たわっていたのは、あなた自身だった。

もちろん、あなたはベッドのそばに立っている。立って、横たわる自分を眺めている。では、ベッドで寝ている自分は誰なんだろうか。どうして、自分が二人いるんだろうか。
異様な光景に、探索者は正気度を1/1D10失う。

相馬 崎更 : CCB<=60 【SAN値チェック】 (1D100<=60) > 43 > 成功

 

相馬 崎更 : 「は……?」

ショウタ : 「相馬さんきてくれたんだー!うれしい!」

相馬 崎更 : 「え?」

ショウタ : 「退院うらやましいなあ」
ショウタ : 「僕も早く元気になって演劇見に行きたいよ」

相馬 崎更 : 部屋を見渡します。

 

KP : そのような声が聞こえてくるのは、ベッドのわきに置いてある、機械が付随したシリンダーからだった。
そのシリンダーは緑の液体で満たされており、中には脳みそが浮かんでいた。
ショウタの声は、このシリンダーに付随した機械から聞こえてきている。

 

ショウタ : 「相馬さん?どうしたの?」

相馬 崎更 : 「……どうもしないよ。少し眩暈がしただけ。まだ万全って訳じゃないみたいだ」

ショウタ : 「そうなんだ。はやく全快するといいね」

相馬 崎更 : 「……そうだね」

相馬 崎更 : ベッドに寝かされているもう一人の自分を詳しく調べたいです。

KP : 自分と全く同じ見た目で、眠っているのでしょうか、反応はありません。

 

KP : そこへ医者がやってくる。

医者 : 「ショウタ…少し眠っていてくれ」

KP : そう言うと医者は、シリンダーのスイッチのようなものを押す。以降、ショウタの声は聞こえなくなる。

 

医者 : 「もう、そんなに動けたのか。体を自由に動かすには、まだ調整が必要だと思ったんだが」

相馬 崎更 : 「……僕に、何をしたんですか」

医者 : 「そうだね。順を追って話そうか」

医者 : 「息子は、事故で体の原形がとどめられないほど重傷を負った。なんとか、脳だけは保存しようと試みてね」
医者 : 「幸い、私は交流があったんだ。そういったことができる種族との交流が」
医者 : 「ベッドにいるのは君自身の、元の体だ。今の君の体は、作り物だ。人形にね、君の脳みそを移し替えたんだ」
医者 : 「息子はね、人形にうまく接続できなかったんだ。機械に移し替えるには、時間が経ちすぎていたらしい。うまく順応してくれないんだ」

医者 : 「でも君の体なら、適性率98%の君の体なら、きっとこの子になじんでくれる。そしてその人形の体も、君になじんでいるだろう。ちょっと調整は必要だったが、 適性率は97%だったからね」

 

 

医者 : 「さて、ここからが本題だ。息子のために、君の体が欲しい。君にはその、機械の体をあげよう。お願いだ。君の体を、譲ってくれないか」

 

相馬 崎更 : 「ご子息のことは気の毒に思います。ですが、丁重にお断りします」

医者 : 「その体は元の君の体と見た目は何も変わらない。普通に生活するのにも差し支えないはずだ」

相馬 崎更 : 「あなたのご子息に僕の身体を提供したところで、僕が得られる利益がありません。それに、機械は必ず劣化します。不具合が発生したとき、あなた以外に診せられる医者がいないなんてあり得ない。仮に、あなたが生きている間はそれで妥協したとして、あなたの死後は? 僕の人生にどうやって責任を取るというのでしょう」

医者 : 「機械は劣化するかもしれないが、人間だって老化していく。同じじゃないのかい?」
医者 : 「メンテナンスはしっかりしよう。僕の死後も、やつらに面倒見てもらえるようにするさ」

医者 : 「見た目には人間と人形の体、何も変わらない。認識できないはず。だったら同じじゃないかな」

相馬 崎更 : 「どれも、僕が理不尽を強いられる理由足りえません。どんな講釈を並べたところで無意味です」

医者 : 「そうか。わかった」

 

KP : そしてあなたの意識は暗転していく。

 

 

 

KP : あなたは気が付くと、自分の家に戻っていた。失われた記憶も戻っている。病院での出来事も覚えている。あれは夢だったのか、現実だったのか。

 

KP : ふと、体のある一部分が、よく見るとわかることだが、他の部分とは違う色になっていることに気が付く。はたしてその体は、本物なのか、偽物なのか。それがはっきりするのは、もう少し後のことだろう。

 

相馬 崎更 : ベッドから飛び起きて、日時を確認します。

相馬 崎更 : 「締め切りまであと9時間……いけるか……?」

相馬 崎更 : パソコンにかじりついて執筆作業を始めます。

 

KP : あなたは一息つく間もなく、せわしない日常へと戻っていくことでしょう。

 

KP : これにでカタシロ終幕です。お疲れさまでした。